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2015年4月1日水曜日

化石観察入門サプリメントその3:クマにラジオは有効か?

 今回はガラリと話題を変えて、国内の化石調査について語ってみたいと思います。
化石観察入門の15ページで、野生動物に関するリスクについて少し書きましたが、このテーマをもう少し掘り下げたいと思います。

 本の中では「クマやイノシシ、サルなどの大型動物はもちろん、スズメバチなどの昆虫、そして最近では感染症を引き起こすマダニなどの被害も報告されています」と書きましたが、これらはほぼ全て私自身がフィールド調査中に襲われた動物について列挙したものです(余り褒められた話ではありませんが…)。

 さすがに北海道を調査する時は万全の対策を取りますのでヒグマに襲われた経験はありませんが、本州を調査している時はふとした気の緩みからツキノワグマに襲われたことがありました。

 1999年の晩秋、富山県の有峰湖で地質調査をしていた時、尾根を回りこむ山道の突端部分で2匹の小熊を連れたツキノワグマに遭遇し、否応なしに攻撃を受けたのです。
有峰地域の一部は中部山岳国立公園に含まれるため野生動物にとっては環境が良いことから、非常に体格の良いツキノワグマが何匹も生活していました。彼らと一日に一回は遭遇する日々が続いていましたが、攻撃を受けたのはこの一回きりでした。

 その日もリュックに括り付けたラジオを最大音量で流し、熊鈴なども鳴らしていましたが、山の中では沢音や風音などが思いのほか大きく、これらの音もかき消されがちでした。
(野生動物は聴覚が優れているだろうから、人間に聞こえなくともこれらの音を察知してくれるのでは?という考えも希望的観測に過ぎなかったようです)。

 そして新ノ又谷と呼ばれる谷の南側に位置する尾根に差し掛かったころ、目の前を2、3匹の子犬のような生き物がコロコロと走り去っていくのが見えました。小熊の近くには必ず母熊がいるはずであり、一瞬「あっ・・・ヤバい!」という考えが頭の中に浮かびましたが既に手遅れで、10mほど先の藪の中から母熊が唸り声を上げて立ち上がり、私めがけて猛然と突進してきました。ツキノワグマですので体格はそれほど大きくなく、せいぜいセントバーナードを一回りほど小さくした程度だったと記憶しています。しかし筋骨隆々の母熊が子供を守ろうと必死で突撃してくる迫力は凄まじいもので、私は装備を投げ出して逃げ出す事しかできませんでした(通常、熊と遭遇した場合は視線をそらさず徐々に後退するのが定石と言われますが、そうした余裕はありませんでした)。

 湖へと転がるように逃げ、後ろを振り返ったところ、母熊が攻撃をやめて引き返して行くのが見えました。まぁ熊が本気で攻撃してきたら人間など逃げ切れるはずがないので、見逃してくれたという事でしょうか(苦笑)。這う這うの体でキャンプ地へ戻って防寒具を脱いだら、背中部分がざっくりと切り裂かれて綿がはみ出ており、二度肝を冷やしたのも今となっては思い出深い出来事です。


 晩秋は熊の活動が活発化する時期であり、こうした季節に熊の生息地で調査することは決して推奨されるものではありません。しかし仕事上やむを得ずそうした地域に入る場合は、普段以上の警戒が必要だという事を思い知りました。

 熊鈴やラジオも決して役に立たないという訳では無いので、出来る限り使用すべきだと考えます。また沢音が激しい場所や、尾根の突端など野生動物との突発的な遭遇が予想される場所ではクラッカーなどを使用して大きな音を立てるなどの工夫が必要かもしれません。

 いずれにしても恐ろしい出来事でした。皆様が同じ目に合わないよう、苦い過去の記録としてここに懺悔します。サル・スズメバチ・マダニの被害に関してはまた別の機会に…。

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