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2013年10月21日月曜日

無人航空機(UAV)を用いた高詳細3D地形データの取得


表題の件についての様々な記事や、これまでの開発経緯(=失敗談)をまとめてみました。長文です…。

 UAVとはUnmanned Aerial Vehicle、すなわち無人航空機の略称です。
 UAVの歴史は古く、第一次世界大戦時から開発がスタートしたとの事ですが、現在は官民を問わず広く門戸の開かれた分野となっています。特に21世紀になってからは民生品のラジコンを自律飛行させるキットが販売されました。またホビー分野では、Ar. DroneGALAXY VISITORなどに代表されるような個人ユースの無人機も登場しています。特にAr. Droneは優れた安定性と、タブレットやスマホを用いた手軽な操縦システム、カメラの標準搭載による空撮性能、そしてトイザらスやAmazonで手軽に購入可能という特徴から、本式のUAVに比べれば性能は低いものの、この分野の敷居を一気に押し下げた感があります。

 ラジコンを無人機に改造するキットがまだ一般的でなかった2007年ごろ、無人機を自費開発して阿寒湖の調査に挑んだことがありました。ただし航空機ではなく水上ロボットですので、正確にはUSV (Unmanned Surface Vehicle) に分類される機体でしょうか。2007年秋にはGarmin社製のGPSとレゴマインドストームによる自律誘導が可能な第一世代型USVを、また2008年夏にはイーグル社製のGPS内蔵ソナーを搭載して緯度経度と深度情報が取得できる第二世代型USVを作成し、阿寒湖の詳細な湖底地形データを取得する予定でした。また第二世代型には試験的にワイヤレスカメラを装着し、操縦者が装着したヘッドマウントディスプレイにソナーの情報が表示されるような仕組みも取り付けました。


第一世代型USV、全長約50 cm。
スクリューとファンの両用による推進。
第二世代型USV、全長約60 cm。
上部のカバーを外し、ソナーを露出させた状態。
スクリューによる推進。
第二世代型USVの先端部分。
上部のカバーを付けた状態。カバー上にワイヤレスカメラを搭載。
このカメラでソナーのディスプレイを遠隔表示。

 結果から申し上げますと、第一世代は推進力が圧倒的に不足していたせいで微弱な水流にすら逆らえずに湖面を迷走、第二世代は一定時間測定できたものの、ソナーの重みに耐えきれず船体内部に浸水したのち半壊、そして沈没(その後回収)と散々な末路を辿りましたが、それでも僅かながら地形データを取得する事が出来ました。しかしその後、仕事が忙しくなったこともあってUSVの開発は停滞しております。


 このようなショッパイ失敗談は横に置いておくとして、現在世界中でUAVやドローンを用いた地形取得の試みが進められているので紹介していきます。UAV自体の開発環境が整ったことに加え、UAVで撮影したカメラ画像から精密な三次元モデルを合成するソフトウェアを容易に入手できるようになった事も、この状況に拍車をかけていると思われます。

例えばこちらはスイス連邦工科大学の運用例です。UAVの一種であるドローンを用いて、マッターホルンの精密3Dモデルを作成しています。

この記事だとドローンの性能がよく分かりませんが、下記ITmediaの記事で紹介されているeBeeという機種とほぼ同じものだと思われます。


 またこちらはCADソフトウェアの老舗であるAutodesk社が手掛けた、UAVによる建造物の3Dモデル作成例です。



 国内でも(株)アジア航測や(株)防災技術などが非常に高精度な写真測量による三次元モデルの合成ソフトウェアをリリースしています。こちらもUAVとの親和性は非常に高いと思われます。

 また、地形図の取得とは少し違いますが、伊豆大島の火山活動観測に対してUAVUGV(無人観測車)による観測網を構築する研究も進められています。こちらもUAVを用いた情報収集例の最先端と言えるでしょう。

 なお先述のAr.Droneですが、今年の8月には次世代型のPower Editionなるものがラインナップに加わりました。この製品は飛行時間が従来の12分から36分へと3倍に延長され、更に別売のGPSフライトレコーダーを接続すれば機体の位置がリアルタイムで記録できるほか、指定した目的地点に従って自律飛行を行うことも可能になるそうです。Ar.Droneにはもともと高度センサーが搭載されているので、GPSによる誘導と組み合わせれば疑似的な地形追随飛行 (*1)も可能ということでしょうか。もしこれができれば、品質の一定した画像データを取得しながら飛行する事も容易だと思われます。AR.Drone 2.0 Power Editon の価格は約39000円、GPSフライトレコーダーは別売で約13000円だそうです。操縦範囲が実質50mでカメラの画質も限定的であるなど、本式のUAVと比べれば機能は限られるため写真測量に使用するのはまだ問題があるかも知れませんが、ここまで高機能なものが数万円で販売されているのは驚異的と言うほかありません。こういった民生品のUAVも今後どんどん進化する事でしょう。正しい使われ方がなされることを祈るばかりです…。

 いずれにしても、地形データの取得から立体モデルの作成までの工程を全てDIY (*2)できてしまう時代がもうすぐそこまで来ていると思われます。全国にある各ジオサイトの3Dモデル作成や、個人で発見した露頭のデジタル保存など、挑戦する意義はあるのではないでしょうか。私も久々にロボット開発と地形データの取得作業を再開する予定です。

*1 レーダーによって機体前方の地形を走査しながら、地表面に対して一定の高度(一般に数十メートル)を保ちつつ飛行すること。NOE (Nap Of the Earth)飛行とも呼ばれる。

*2 Do It Yourself、すなわち「自分で作る」の意。日曜大工よりも広い概念かと思われる。起源は意外に古く、第二次大戦後のロンドン復興に関する国民運動とのこと。限られた材料と科学知識で創意工夫を凝らすという意味で、某ドラマの主人公名に由来した「マクガイバリズム」というスラングが上位互換(?)となるケースも。

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