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2014年7月24日木曜日

化石観察入門サプリメントその2:恐ろしすぎる砂漠の食中毒とその対策

 さて、今回はお世辞にも美しいとは言えない話題ですが、砂漠調査時につきものとなる食中毒のリスクについて取り上げたいと思います。

 実は2012年の調査に先立ち、2010年の春にもオマーンの調査が行われており、その際にひどい食中毒で苦しんだ方がいらっしゃったので食べ物には十分気を付けるように、との警告は事前に受けていました。私も胃腸が頑強ではない性質なので、常日頃から海外のフィールドに行く際には正露丸・緑茶・乾燥梅干しの食中毒対策セットを持ち歩いており、これらを服用することで食中毒を回避していたのですが、残念ながら中東では通用しませんでした。

 オマーンの調査は十日間の日程で行われましたが、体に異変が生じたのは調査4日目でした。その日は午前7時に朝食を済ませ、7時半に車でハジャール山脈の調査に向かいましたが、食事を取った直後から下腹部に違和感が生じ、移動中にもどんどんそれが増し、1時間後にハジャール山脈の麓に到着した頃には既に歩くのが困難な状態になっていました。そこで登山は断念し、麓の博物館で休養を取ることにしました。しかし症状は更に悪化し、ついにはトイレに駆け込んで大量に嘔吐することになります。何度も吐いているうちに、段々と吐瀉物に赤いものが混ざり始め、これはそろそろ本格的にやばいのではと感じ始めたころ、ようやく吐き気が収まりました。その後は現地の研究者の方に、砂漠を2時間かけて搬送していただき、マスカット近郊の病院で点滴などの治療を受けました。

 余談ですがオマーンの方々には伝統的な互助精神が広く浸透しており、私が苦しんでいる間にも見知らぬ人々が何かと声をかけて下さり、大変お世話になりました。こうした精神性は国内の至る所で見られ、例えば砂漠の真ん中でジオツアーをしている最中に、見知らぬ人同士が食べ物を気軽に交換するといった風景を頻繁に見かけました。中東の厳しい自然の中で生き抜くうちにこうした習慣が生まれたとのことでしたが、色々と感心させられる出来事でした。

 治療した後も数日間は食事をとることができず、スポーツ飲料と飴だけで過ごす日々が続きました。有難かったのが、砂漠の中にあるガソリンスタンドに併設された小さな売店にポカリスエットが売られていたことです。こうした時に、普段から慣れ親しんだ味と出会えるというのは何よりも嬉しいことでした。大塚製薬さんには感謝してもしきれません。

 さて、ここで問題となるのが、食中毒の原因は何だったのかということです。
 実は私が倒れる2日前に、別の研究者が同じ症状に見舞われており、また2010年に行った調査の際にもまた別の研究者が倒れるなど、2年間で都合3人が食中毒にかかったことになります。食中毒を起こした人間は全て30代~40歳前後の年代であり、同じ調査チームにいた50代~60代のベテランチームは全く平気だったというのも印象的でした。もちろん倒れた人々も日常的に世界中の劣悪な環境で調査をしており、人一倍体力には自信のある方々でした。

 後日、食中毒メンバーで原因について探ってみたところ、それぞれ別の原因を挙げました。

研究者A:ホテルのプールで泳いだところ、誤って少量の水を飲んでしまった。
研究者B:砂漠のキャンプ地に宿泊した際、支給された生焼けのオムレツを食べた。
私:調査中、シンクホール(地下で侵食が進行した結果、地表が陥没してできた穴)に溜まった水を誤って口に入れてしまった。また、研究者Bと同じく生焼けのオムレツを口にした。

 というわけで思い当たる原因は様々であり、調査から2年たった今でも食中毒の原因に関する議論は収束していません。ただ水や食物に起因する事は間違いないようで、やはりフィールドに行った際には怪しげなものを口にしないという教科書的な対策を取るしかないようです。

 なお、この調査で私は体重を6kg近く落としてしまいました。現地の研究者は「君がスリムになって帰ればワイフもさぞかし喜ぶだろうHAHAHA」と陽気に笑って下さいましたが、実際には帰国してから奥さんに滅茶苦茶心配され、その後こっぴどく叱られたのでした。

おしまい。



オマーン北東部の海岸沿いにあるビーマ・シンクホール (Bheema Sinkhole)

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